"原点回帰"と"転換期" 高専ロボコン2010全国大会


 今年も後輩の全国大会出場のおかげで,高専ロボコン全国大会を応援席で観戦することが出来ました.普段とは少し気分を変えようと,敢えて大江戸線ミラクル☆トレインに思いを馳せながら両国へ向かったら,年に1回ながら歩き慣れた道とは違い後輩とOBを待たせてしまいました.国技館の裏から表に向かって歩いた道中,一般入場の行列を最後尾から初めて目にして毎年これに並ばなくて済んでいるのは後輩の子たちの結果のおかげなのだと遅刻しながら身の引き締まる思いでした.
(競技課題,受賞校への言及がある為,放送での結果を心待ちにしている方は,以下お気をつけください)

競技課題の原点回帰

第23回大会『激走! ロボ力車』競技概要

今年のロボコンは、2足歩行ロボットが、乗り物に乗った人をゴールまで運ぶ速さを競う競技です。ロボットに求められるのは、Speed、Power、そしてOperation能力!  
スタートしたロボットは2足歩行で7.5メートル先の連結ゾーンを目指します。そこでロボットと高専生が乗った乗り物と連結させるのはチームメンバーの仕事で、チームワークも見所の一つ。連結したロボットは、高専生を運びながら方向をかえ、ゴールを目指します。ゴール前に立ちはだかるのが、2.5メートルの高さに吊り下げられた小さくて不安定な「鍵穴」に自作の鍵を挿し込む課題です。鍵を挿し込むことでゴールに入る権利を獲得し、いち早くゴールに駆け込んだチームの勝利です。
赤・青2チームによる対戦方式で、制限時間は3分間です。

ロボコン

 ということで,今年の競技もレースです.ここ3年連続してだんだん高専生にとって当たり前のように要求される"2足歩行"*1と,会場で「第1回以来」と繰り返し強調されていた"人を運ぶ"というのが競技の肝でした.
 前者は各高専でノウハウを溜めていたり,過去の大会で他校のロボットを見て研究が可能な点からそこまで苦労するものではないのだろうという認識で居ましたが,真っ直ぐ進むことが難しかったり途中で往生していたりという状態を何度か見かけました.きっと母校のフィールドではうまく行っていたものの本番のフィールドとの差異に悩まされた等あるのでしょう.ただ,NHKが当たり前として求める2足歩行よりも移動速度への執着が浮き彫りになってきた感はオープニングのASIMOを見た後に大きく感じました.
 後者はルール発表の際から原点回帰という言葉にはずっと違和感を覚えていました.ここでの原点である1988年の「乾電池カー・スピードレース」は「乾電池2個を電源としたマシンで走行のタイムを競う」競技だったのですが,そのときの競技の本質は乾電池2個で動力を如何にマシンに発生させるかであったので,電圧の全く違うロボットで鍵穴に鍵を挿し込むという作業を含めてのレースというのは,参加学生にとってヒントの得られる原点ではなかったことと思います.
 ただ,人を運ぶというのはロボットの筐体や動力伝達部品にとっても,回路にとっても多大な負荷を与え,半年の悩みの種として良い競技課題になっていたのかもしれません.

 意外だったのは鍵を挿し込む難しさ.鍵にも条件が何かあったのだと察しますが,走行中に輪へものを掛けるというのは,そう簡単な話ではないことを緊迫する競技の中で思い知らされました.
 セッティングタイムで出場学生が輪の方向や吊るしているチェーンを調整する(しかもほとんどのチームが同じ状態に)という図が必要になるのは競技出題側からの意図とは大きくずれてしまったのでしょう.本当は様々なセッティングを想定して,多様な鍵の挿入方法が期待されていたことと思います.
 関東甲信越地区大会も見に行ったのですが,その点で小山高専の螺旋型の鍵は面白いものでした.

オペレーションをチームに求める面白さ

 今までのロボコンで見たことのなかった図が1つ印象的でした.それが連結ゾーンでの「ロボットと高専生が乗った乗り物と連結」です.チームによって異なりますが,メンバーの複数人でゾーンに達したロボットを素早く次の体勢へ動かすというのは課題としての善し悪しはわかりませんが,初めて見た光景でした.
 今までの競技中で似たような図なら,リトライ時にメンバーが集まって急遽修理を行うなどの辛いものしかありませんが,ロボットに人が集まるのが課題にとってポジティブな方向であるというのは新鮮です.

 ただ,ロボットに人が群がって観客席からは見え難く,次のアクションを待つだけのよくわからない何かでしかないのは問題でした.

ロボコン大賞の行き所

 優勝したのは鹿児島高専ロボコン大賞は仙台高専名取キャンパスでした.
 優勝の鹿児島高専は,僕も現役の頃に九州地区から関わりがあった為,遂に獲た優勝旗を掲げる姿を見るのは感慨深かいものでした.2004,2005の頃に操縦者をしていた方が応援席に来ていて,お祝いの挨拶に伺ったときは本当に嬉しそうな顔をしていました.

 大賞の仙台高専名取キャンパスのロボットは鍵を打ち出す方式で目立っていました.
 去年は"ロボコン大賞は狙って作れるのか"と疑問を大きく感じましたが,今年は意味によっては納得出来る結果だったのではないかと思います.競技で勝っていて,他と違う何かをロボットで表現していたと思います.ただ,全国大会でここまで似たり寄ったりのロボットが集まってしまう,つまり学生が最適な答え1つに集合してしまう競技課題の上ではロボコン大賞を最高の賞として授与してしまうのは優勝したチームにとっては残酷なようにも感じました.

 個人的には関東甲信越地区の時から産技高専荒川キャンパスの慣性を推進力に使ったロボットが大受けで全国大会に行って何戦か勝てば大賞取るんじゃないかと思っていましたが,まさか初戦で自身の母校とあたってしまうとはと複雑な心境でした.

続きは地上波で!


 全国大会から少し日が空き,慌ててこんな日にエントリをまとめているのは,今夜からミッドナイトチャンネルで地区大会の再放送が始まる為でした.既に四国地区大会の放送がこれを書いているところで始まってしまっており,若干遅刻気味ですが,以下の放送日程の引用から放送を視聴して頂ければなあと思います.
 今年の全国大会放送はいつもより少し早めに行われるようです.

地区 放送日 放送時刻
四国 11/29 3:10-
中国 11/30 3:00-
近畿 12/01 3:00-
東海北陸 12/02 2:10-
東北 12/04 1:15-
北海道 12/04 2:10-
九州沖縄 12/04 3:05-
全国 12/04 23:00-
全国再放送 12/12 16:00-

引用元: http://www.nhk.or.jp/robocon-blog/4000/66200.html
地方によって放送時間が前後する場合があるようなのでお気をつけ下さい.

高専カンファレンスでまた話したい

 高専ロボコンを取り巻く環境が今年は大きく変わったように思います.各地区大会でのリアルタイムな様子を始め,テストランの事細かな情報をTwitterで伝えるNHKのスタッフさんが中心になり,情報の流れが全く違うものになったのは感動的でした.ルールも原点回帰をした以上,今までの流れから大きな転換が起きるものと僕は期待しています.競技課題のマンネリとも方々で聞く事がありますが,毎年それに立ち向かって真剣に取り組んでいる学生さんがいる以上,無くなることが考えられないイベントでもあり,それを見たい人たちが多く居るイベントです.
 高専カンファレンスで少しずつ僕も伝えてきて,もう潮時かなとも感じていましたが,この大きな変化までは自身の思うことを述べておきたいと感じさせられた全国大会でした.

 (ここに後ほど前回の東京開催での発表資料をアップする予定です)

 今年も関係者の皆さんに感謝.

*1:競技ルール上での2足歩行の定義と一般的な認識は相違があると思います