marqs-60の生まれる少し前

自作サーバカンファレンスの開催

ウェブサービスを動かすサーバを自作する」という行為は、過去様々な人がそれぞれの形で試してきました。自宅に自作PCを置いてサーバにしている、という方も珍しくはないと思います。しかし、自作したサーバを数十台、数百台の程度の規模で運用することは、すくなくともこれまでは、あまり一般的ではありませんでした。
今年に入り(一部の)ウェブサービス事業者の間で、自作サーバによって、サーバ環境を構築しようという機運が高まっています。
自作サーバの分かり易いメリットは、過剰な仕様を削ることによるコストダウンですが、ベンダ製サーバの価格低下や、クラウドサービスの充実により、以前ほどのメリットは薄れつつあるように感じられるかもしれません。しかし、まだまだ自作サーバの可能性は豊富にあり、近い将来に消滅するようなものではないと考えています。
今回の自作サーバカンファレンスでは、Cerevo, CyberAgent, Pixiv, チームラボ, はてなのそれぞれの自作サーバのメリット・デメリット、ノウハウなどなどをお話したいと思います。

自作サーバカンファレンス : ATND

ということで,自作サーバカンファレンスが開催されます.
はてなmarqs-60から各社の自作サーバについて様々に語られる,少し異色なカンファレンスとなることと思います.
きっとmarqs-60の細かい話も発表されますが,そことは切り離されるくらいの余談をここに記しておきます.

Makeへの掲載


はてなインフラ社員id:marqs による,はてなの新自作サーバに関する記事がMakeに先日掲載されました.
はてな広報ブログの方でも紹介されていますね.

このエントリでは,特にその記事中のこぼれ話に記されている,僕が大きく関わることの出来た"幻の自作機"について書いていきたいと思います.



Make: Technology on Your Time Volume 08

Make: Technology on Your Time Volume 08

幻の自作機

僕も高専ロボコンのおかげでハードウェアの方に関わっていた時間が長かったこともあり,はてなのインフラでは物理的な面でサーバのことを考える作業をしています.特に印象に残っているのは旧オフィスのサーバルームで,オフィスに転がっていた1mm厚のアルミ板を板金加工をしたことですね.その時作ったのは2.5インチハードディスクを旧自作機CMX-50にマウントするためのものでした.褒められる仕事ではありませんが,これがアルバイト出社2日目のことです.
その時サーバルームで叩いている姿を見てインフラ社員に驚かれて嬉しかったことを今でも覚えています.

その半月後にmarqsさんが入社し,一緒に自作機に取り組むこととなりました.

日常のインフラ業務の傍ら,CMX-50の良い点,悪い点を熱や流体の面など今迄取り組まれていなかった切り口から調べて,新サーバの草案を練り始めました.

そこで最初に考案,試作が行われたのがその幻の自作機であるHB-01という筐体なのです.
名前の由来は配置がブレードサーバっぽくなるのでは?というところからHatena::Bladeと呼び始め,その略称ですね.01はなんかHBだけじゃ鉛筆の硬さみたいだったので付けてみただけです.

HB-01の設計思想


HB-01はid:jkondoの設計した旧機CMX-50の思想を大きく取り入れました.CMX-50について調べているときにjkondoさんから聞いた話が僕は好きなのですが,最初は段ボールの上にパーツを配置して作ってくれる町工場を探したそうです.
その体当たりなレイアウトが必然か偶然か,サーバラックでは本当に素晴らしいエアフローを実現していることに驚きました.

元々,サーバラックメインフレームの中がスカスカになったところにサーバを設置するというのが出発点で,成り行きで下から上へのエアフローを余儀なくされていました.Dellなどの市販のラッキング向けサーバは,通常前から後ろへのエアフローとなっており,それを下から上へ逃がして行くという無理矢理な形で投入せざるを得ない状況だったのです.サーバラックの下から上へのエアフローに適合したサーバは市販ではほとんど存在しません(ブレードサーバなどはありますが,ストレージ,RAMを構えた独立したサーバとしてはほぼ皆無だと思います).
CMX-50はその皆無な仕様を満たしており,熱流体シミュレーションを行った範囲でも素晴らしいと思えるエアフローを実現していました.これが段ボールだけから生まれた偶然の産物とは考え難いくらい,妥当なフレームだったのです.

僕はそのフレームの仕様を踏襲しながらHB-01に着想しました.縦方向のエアフローを実現しながら,これから訪れるであろう2.5インチストレージの標準対応,CMX-50の組立時に煩わしかったケーブリングや,組立の為に生じる物理的な制約を解消しながらのフレーム.併せて,新フレームに適した風通しと,固定が可能な棚板も設計していきました.

そして辿り着いたのはやはり,サーバの厚み.現在生産されているmarqs-60と同様のネックを抱えました.リテールのCPUファン,RAMの高さがどうしてもラッキング出来るサーバの台数を減らさざるを得ない状況になっていたのです.


コストとメンテナンス性(時間)

ネックを克服するのに,パーツの選定が大きく貢献しました.

  • 1Uサーバで使われているような40mm四方でも流量の大きいファン
  • 平たく熱気を逃がす先を選択出来るCPUファン
  • サーバに必要な最低限の電力を供給し,フレームのサイズのボトルネックとならない電源ユニット

をうまく見つけ,安定的に手に入れられることがわかり,フレームの設計は最後に2択に辿り着いたのです.

現在生産されているmarqs-60と,先まで述べていたHB-01.前者は従来の1Uハーフサーバと同様で,後者はCMX-50の踏襲.

そして,インフラ部で出た結論はmarqs-60という選択でした.シンプルに筐体がまとまっていて,フレームの製作費が安く抑えられたことと,ラックに対してネジを4点だけで止められることによるメンテナンス性が物を言いました.この選択の時,シリコンバレーを見て回っていたタイミングで決定があった為,ちょうどその場に居合わせなかったことで大変悔しい思いをしましたが,現在はCMX-50に変わる新たな自作機としてのmarqs-60を通常運用するためにケーブリングやラック内での配置を試行錯誤しながら取り組んでいます.

そしてHB-01はいま

僕の部屋に居ます.近々引越をして設置場所を工夫しているところです.回線,温度などの環境で余裕があればウェブサーバとして稼働させたいなと考えています.ただ,試作なだけに塗装をしておらずたまにサビ落としが必要な状態なのが残念ではありますが,フレームから自作のサーバというのは何だか愛着が沸いてしまいますね.それを考えるとはてなで100台近いオーダーで動いて,ラックを1つ分埋めてしまっているmarqs-60を見る度に僕も楽しい気分になれます.

今回は自分の作ったものが稼働するには至りませんでしたが,次も何らかの形ではてなのハードウェアに関われたら幸いです.
こういった試行錯誤もが当たり前のように自作サーバカンファレンスでは語られることと思います.アマアマカメラマンとして参加する身ではありますが,寸前になった今も楽しみで仕方がありません.

こういったソフトウェアが回っているだけの会社かと思いきや,ハードウェアの部分まで取り込んでいる雰囲気は,ハードの世界からやってきた僕にとっては,たまらなく面白い世界になってきています.クラウドと叫ばれている中ではありますが,コンピュータのハードウェアを知った上で,ソフトウェアが最大限の力を引き出そうと取り組むのに対して,ソフトウェアの叶えようとするものを少しでも助けられるハードウェアを生み出して行きたいなと思える体験をすることが出来たなと感じております.

marqs-60についてはこちらのエントリーがわかりやすいです